お知らせ

2022.11.18 【開幕レポート番外編】
休憩時間も明治座で楽しみ尽くそう!『歌妖曲~中川大志之丞変化~』幕間の過ごし方

楽しいお芝居は幕間もまた楽し。11月6日に初日の幕が開き現在絶賛上演中の三銃士企画第二弾『歌妖曲〜中川大志之丞変化〜』を100パーセント楽しむための〝明治座の歩き方〟をご紹介します。

さて幕間。明治座上演の演目では、通常の演劇よりやや長めの30分の休憩時間にお食事や軽食、ショッピングをお楽しみいただけます。

 5階・4階(同・二階席)に設けられた食堂では、定番の幕の内弁当(幕と幕の間に食べるから幕の内って、ご存知でした?)
そして、本公演限定メニューとして、物語にちなんで名付けられた「鳴尾一族御膳」(大海老天丼。ゴージャス!)と「蘭丸一族弁当」(三色ちらし弁当。カラフル!)の2種類もご提供中。限定メニューはインターネット予約のみ(定番メニューはお電話でも)となりますので、ご予約はお早めにお願いします。

 2階の「喫茶ラウンジ」と1階特設の「カフェ歌妖曲」でも、昭和テイストのドリンクや軽食など、特別メニューを展開中。「喫茶ラウンジ」でたのしめるオリジナルドリンク「鳴尾定〜なるおさだむ」と「蘭丸杏〜らんまるあん」は、黒と赤のイメージカラーを表したコク深く爽やかなノンアルコールカクテル。幕間のリフレッシュに最適と評判です。
1階の「カフェ歌妖曲」には、カレーやナポリタン、クリームソーダなどのレトロな喫茶メニューの数々が。昭和カルチャーに造詣の深い三銃士企画〝三男坊〟プロデューサーこだわりの味わい、どうぞご堪能ください。すべて11月30日までの『歌妖曲〜中川大志之丞変化〜』公演期間内のみのご提供です。

 さらに、一階客席のある3階には、お菓子に海鮮、雑貨など、個性あふれる店舗が軒を連ねた「明治座横丁」、4階にもお土産物やお菓子などを扱う売店があり、お買いものとそぞろ歩きを楽しめます。
もちろん、『歌妖曲〜中川大志之丞変化〜』公演オリジナルグッズも、劇場内特設売店で発売中。初日は混雑でご迷惑をおかけしましたが、ひと味違ったおしゃれさで注目を集めています。オリジナルグッズはオンラインショッピングサイト「東宝モール」と「イーオシバイドットコム 」でも販売中ですので、そちらもぜひご活用ください。

 目とお腹を満たして、さあ、物語の世界へ!


TEXT:大谷道子

2022.11.18 《いいじゃないか……上出来だ!》
祝・開幕!『歌妖曲~中川大志之丞変化~』初日レポート


一族から抹殺された男の歌と殺しの復讐ショーが、今、始まるーー。2022年11月6日、ついに開幕した三銃士企画第二弾の新作音楽劇『歌妖曲〜中川大志之丞変化〜』。本格的な舞台に初挑戦の俳優・中川大志さんを座長に豪華キャスト+生バンドが揃い、白熱のステージが繰り広げられました。興奮と感動に包まれた初日の様子を、緊急レポート。運命の男・鳴尾定&桜木輝彦、明治座に降臨! です。


 晩秋の一日、その日の空は一座の門出を祝福するように晴れ渡っていました。
 東京・浜町の明治座。劇場の脇には、主演の中川大志さんをはじめとするキャストの幟旗(のぼりばた)が、澄んだ晩秋の風を受けてはためいています。明治6(1873)年に開場して以降、大正、昭和、平成、令和と、4つの時代にわたって娯楽の殿堂として数々の演目とスターを世に送り出してきた大劇場。ここで今夜、新作音楽劇『歌妖曲~中川大志之丞変化~』が開幕するのです。

 中に入ると、開演1時間前にもかかわらず場内はすでに大変な熱気。密集を避け、会話を控えながらも、チケットを手に来場されたお客さまの公演への期待が場内を満たしているのでしょう。座席表を確認したり、広いロビーをそぞろ歩いたりと、特別な一日の華やぎを味わいながら、それぞれに開幕の時を待ちます。
 初日のロビーでひときわ賑わっていたのは、公演オリジナルグッズの販売所。おお、すでに長蛇の列! 写真とインタビュー、読みものと公演のエッセンスを注ぎ込んだ美麗な公演プログラム(必携!)をはじめ、中川大志さん演じる作中人物・桜木輝彦のLPレコード『彼方の景色』。そのほか、Tシャツ、バッグ、ブロマイド等々。
 そして、忘れちゃいけないのが、公演オリジナルの「Teruhiko Sakuragi」ネームのペンライト! 昭和の歌謡界を舞台にした今回の公演では、歌謡ショーのシーンなどで客席から光の声援を送ることのできる時間があるのです(細則あり。くわしくは劇場内の掲示ををご覧ください)。

 お客さまだけでなく、さまざまな準備を重ねて今日この日を迎えたスタッフにとっても、初日は特別です。昨日までの舞台稽古とゲネプロ(最終リハーサル)で作品の仕上がりは確認しているものの、舞台はお客さまが入ってはじめて完成するもの。どんな反応をいただけるのか、果たして……と期待と緊張は膨らむばかり。きっと、幕の向こうにいる座長・中川大志さんをはじめとするキャストの面々も、場内のどこかにいる作・演出を手がけた倉持裕さんも、三銃士のプロデューサー3人も、同じく胸おどるひとときを過ごしていることでしょう。

 開始5分前のブザーが響き、客席に着いたお客さまは、静かに開幕の瞬間を待って……いたところへ、割れるような雷鳴と閃光! 初日のお客さま、驚かせて申し訳ありませんでした。これが、本公演の開幕の合図。場内は徐々に闇に包まれ、激しく打ち付ける雨音がこだまします。

舞台写真

 ステージ上に現れたのは、昭和40年代のとある場所にある診療室。徳永ゆうきさん(別の役では歌声も披露)演じる白衣の闇医者が、診療椅子の上にいる誰かと向き合っています。振り乱した長髪に、歪んだ容貌。手足の動きも、どこか常人とは異なります。
 この男こそが、本作の主人公・鳴尾定。芸能一族・鳴尾家に生を受けながら、その禍々しい容姿から忌み嫌われ、存在を隠されてきた男を、あの中川大志さんが演じているのですから、驚きはひとしおでしょう。水を打ったように静まりかえる場内。ふたたびの閃光に照らされた定の横顔には、すでに恐ろしいほどの殺気が漂っています。
 闇医者の荒療治によって体中を矯正し、絶世の美男子に変身しようとする定。叫び声、闇の中から響く胎動、そしてーー。

《今、桜木輝彦がデビューする……!》
 力強い宣誓とともに、舞台上は一転、光溢れる歌謡ショーのステージに。ドラムとギター、ベースに管楽器で編成された生バンドのキレのいい演奏に乗りつつ、女性ダンサーを従え登場したのは、その名の通り光り輝く、我らが桜木輝彦! 中川さんが扮するもうひとりの主人公が、晴れやかな笑顔で『彼方の景色』を歌い、踊ります。
 幼少時からのダンスのレッスンで磨いた身のこなしと生来の澄んだ声質、さらに1年半のボイストレーニングで培った歌唱力は、あっという間に場内を魅了。ペンライトの灯は、瞬く間に光の波となって明治座の場内を覆い尽くしました。ゲネプロ時よりもさらに躍動的な中川さんのステージングは、場内のこの熱気を受けてのこと。桜木輝彦、圧巻のデビューです!
 
 復讐劇の幕が切って落とされ、舞台上には物語の登場人物が次々と現れます。
 定に壮絶な憎しみを向けられる一族の長で芸能プロダクション・鳴尾プロ社長の鳴尾勲役の池田成志さん。いやらしさと威厳を同居させられる人は、演劇界広しといえどもこの方を置いて他にありません。定とは母親を異にする長女でトップスターの一条あやめ役の中村 中さん。思わず手を振り喝采を送りたくなる華々しさは、出てきた瞬間から舞台を照らします。一族の愛情を一身に浴びる定の兄で新進歌手・鳴尾利生役の福本雄樹さんは、初々しい存在感で持ち歌『朝陽の学園』を熱唱……と、鳴尾家の人々はいずれもキャラの立った人物造形。愛情も憎しみも濃く、あやめの夫で映画監督の峰田道明(福田転球さん・演)、利生の婚約者・虹子(四宮史桜さん・演)、あやめの娘・希子(中屋柚香さん・演)、勲を支える裏社会に通じたフィクサー、山内圭哉さん演じる大松盛男(軽妙なのに恐ろしい! 絶対に怒らせてはいけないタイプ)ら、周囲のもつれた人間模様が徐々に明らかになります。
 喪服姿で登場するのは、蘭丸杏役の松井玲奈さん。華やかな笑顔を封印した、氷の刃のような存在感にハッとさせられます。鳴尾プロの横暴で衰退したプロダクション社長を父に持つ彼女の宿敵もまた、勲。彼女は定、そして桜木と手を組み、ともに復讐を遂げようと誓い合います。2人の側には、野心をたぎらせる鉄砲玉の極道、浅利陽介さん扮する徳田誠二の姿も。浅利さんもまた、普段の明るいキャラクターを感じさせない翳りを全身にまとっています(激しい立ち回りにも注目!)。

舞台写真

 桜木がスターダムに上り詰めていくと同時に、定による鳴尾一族への復讐計画は着々と進行。因縁の物語に、きらびやかなショー、登場人物それぞれの激情を乗せた歌唱やダンスが織り込まれ、ボルテージは上がる一方。
 さらに、昭和の歌謡界の裏舞台の様子がサイドストーリーとして進行するのが、本作のもうひとつのお楽しみ。お調子者の大物司会者・森住富士夫(玉置孝匡さん・演)、自称・女優で気の強い女性司会者・今井理香(香月彩里さん・演)、職人肌の演出家・門松治(福田転球さん・演)、わがままな面々に振り回されるプロデューサー・八木原圭子(長田奈麻・演)などによる、思わず笑いを誘うやり取りと端々に滲むエスプリは、これぞ劇作家・倉持裕の真骨頂! 明治座の広い舞台を、毒気のある笑いで満たしていくさまにしびれます。
 あっという間に時が過ぎ、第1幕のラストは、ある歌手の大ナンバーに乗せて表現される人物絵巻。愛と憎しみの咆哮と怒涛の音楽が唸りを上げて場内を包む、ああ、これぞ音楽劇! という醍醐味に満たされた、圧巻のひとときでした。
 
 休憩を挟んで、第2幕の幕開き。ここからは定と杏が、周到かつ冷徹に仕組まれたプランによって鳴尾家の人々を次々と復讐の毒牙にかけていきます。
 『リチャード三世』を下敷きにした物語ですから、情け容赦は無用の非情ぶり。そんな中で、次第に曖昧になっていく定と桜木の境界線、その心情の揺れを、中川大志さんは実に大胆かつ細やかに表現。驚くほどの求心力でひとときも観客の注意を逸らさないどころか、憎々しい振る舞いすら次第に哀切にすら思えてくるほど。完全に客席を味方につけていきます。

 そして、辛く苦しい復讐劇なのに、ワクワクしながら身を乗り出して(イメージ。後ろのお客さまのため、あくまで座席に背中はつけたままで)観てしまうのは理由があります。
 ひとつには、楽曲の多彩さ。情念たっぷりの正統派歌謡曲から、演歌、アイドルソング、デュエット、ポップス、ロックテイストまで、作曲家・和田俊輔さんが手がけたオリジナルの昭和歌謡は、どの曲も1回聞けば脳に刷り込まれること請け合いのキャッチーさ。帰り道には、しぜんと歌い出せそうな勢いです。ちなみに、公演プログラムには倉持裕さんと中村 中さんが本作のために紡いだ全曲の歌詞をフル掲載。〝おうちで歌妖曲〟も、これでバッチリです。
 さらに、お一人あたり6役から7役、多い方ではなんと9役をこなしつつ歌い、踊り、アクションを決める10名のアンサンブルキャストの奮闘たるや! 一度では目に収めきれないかもしれませんが、二度、三度とご覧になるうちに、必ずあなたの〝推しキャスト〟が見つかるでしょう。

 舞台はいよいよフィナーレへ突入。大詰では……皆さん、覚悟してくださいね。大変なことが起こります(本当)。衝撃とともに湧き上がるのは、怒りか、哀しみか、それともーー目撃者となった初日の観客席の顔、顔、顔。その一つひとつに、独自の表情が浮かんでいました。きっとそれは、舞台上にいる座長をはじめとするキャストの面々からも見えたはずです。

 かくしてたどり着いた終幕、そしてカーテンコール。バンドの演奏に乗って次々と現れるキャストに、客席からは惜しみない拍手が送られました。それとともに煌々ときらめくペンライトの灯、その波が、感動をダイレクトにステージへと伝えています。
 勢揃いし、座長の合図で上手、下手、そして正面へ深々と礼。顔を上げた座長は、そこではじめてホッと頬を緩め、美貌の中川大志さんに戻りました。この瞬間がたまらないっ!
 二度目のカーテンコールでは、場内は総立ちに。満場のスタンディング・オベーションに笑顔で手を振り、一階席、二階席、そして三階席を手メガネ(なんていうんですかね? 手で双眼鏡を作って覗き込む仕草)で覗き込んで手を振り、最後に上手の裾でお辞儀をしたのち、小さくガッツポーズを決めた座長。《いいじゃないか……上出来だ!》冒頭で定が桜木の容貌に向けて放った言葉が、思わず脳裏に蘇ります。
 素晴らしいデビューステージの余韻をかみしめるように、その名残を惜しむかのように、客席を埋めたお客さまからの拍手はいつまでも鳴り止みませんでした。

 初日の公演を見届けることは、大きな船の出航を見送るのに似ています。どうか航海が愉快なものになりますように、そして輝かしい収穫とともに無事に戻ってきてくれますように……(なんてことを書いていると、登場人物のある人から「たとえ話ばかりで分かりにくい!」と叱られそう)。このご時世、思いはなおさらつのります。
 でも、たとえひとときでも、観客は間違いなくその船の乗組員の一員。そしてこの船は、実に乗りがいのある船なのです。これだけのめくるめくお芝居と歌、豊潤な物語に酔いしれることができるのですから……。
 ということで、予定文字数を大幅に超過したまま、初日レポートはこれにて幕、とさせていただきます。目配りが足らなかった点は、ぜひ、お客さまご自身が劇場で発見し、見届けてください。劇場は連日、万全の安全対策を講じて皆さまのお越しをお待ちしております!


TEXT:大谷道子 撮影:田中亜紀

2022.07.15 【池田成志編】撮影レポート

 知っているか? 憎しみも愛も、根っこをひとつにして咲く花だってことを……。
 昭和の歌謡界の覇権を握った一族の繁栄と転落、その渦中に生きる人々のドラマを歌に乗せて繰り広げる『歌妖曲〜中川大志之丞変化〜』。
 メインヴィジュアル制作の舞台裏レポート、フィナーレを飾るのは、主人公・桜木輝彦こと鳴尾定が復讐の炎を燃やす父親にして、物語のラスボスとも呼べるプロダクション社長・鳴尾勲役の池田成志さん。華麗なる愛と復讐のクロニクル、そのすべてを受け止める覚悟について、静かに、しかし熱を込めて語ってくれました。



池田成志


 主人公・鳴尾定が全身全霊をかけて憎み、追い落とそうとする巨大な父親——池田成志さんといえば、その圧を受け止めるだけの度量を備えた演劇界のベテラン。この日も、飄々とした様子でスタジオに入りながらも、カメラの前に立った瞬間、全身から放たれるものがありました。そう、それは、〝妖〟気とも呼べそうなオーラ。
 「威厳、見せていきましょう!」「ちょっと無頼漢っぽい感じで! 悪そうに!」
 フォトグラファー・池村隆司さんから次々と飛ぶオーダー(今回も熱量増し増し)に、一つひとつ冷静に対処する池田さん。
「テンションの高い撮影なんで、どうすりゃいいんだと多少面食らいましたけど(笑)。でも『あ、これは芝居をすればいいんだな』と。だから、思わず演ってましたね」と、さすが余裕の順応力です。スタジオに流れるのは、昭和を彩ったヒットソングの数々。このヴィジュアル撮影のためにプロデューサーが作ったセットリストで、ずいぶんおさらいしました。
「昭和歌謡、僕はど真ん中の世代じゃないですか? 子どもの頃から聴いてどっぷり浸って、よく歌ってきましたからねぇ。先日亡くなられた西郷輝彦さんの歌とかも。といっても今はコロナ禍で、カラオケにはさっぱり行けてないですが」


池田成志


 台本を一読しての感想を尋ねると「暗い。非常に暗い。暗いなぁ。暗いなぁー!(大声)救いがないなぁ、と思いました」とニヤリ。やはり、主人公の憎しみを受け続ける身としては、心理的な圧も……。
「でも、何か面白いことはできるのかな? とも思いましたね。何しろ、明治座と東宝とヴィレッヂという顔ぶれだし、普通の作品にはならないだろうなと。今もらっている台本の第一稿を読んだ限りでは、勲はどこまでも悪くいなくちゃいけないのか……この男のバックボーンが果たしてどこにあるのか、それは追い追い倉持(裕。作・演出)くんに訊きながら埋めていかなきゃなぁと思っているところです。久しぶりにノート(疑問の洗い出しや、役作りのための覚書などを記す)書いちゃいましたもん。フフフ」


池田成志


 名優の演技ノート、それはぜひ読みたい! 現在感じているもっとも大きな課題は、戦後の芸能界を裸一貫で成り上がってきた俳優であり人気歌手を抱えるプロダクションの社長である男が、鳴尾家という自らの家に固執する理由と、背景にある複雑な家族関係をどう表現するか、ということだとか。
「下敷きにしている『リチャード三世』の場合は、王家というものがあるからあの復讐劇が成立するんだろうけど、鳴尾はそうじゃなくて、戦後のどさくさの中で無茶苦茶なことをやって成り上がってきたわけで。いったいどういう成り立ちをしている家なのか、定のことをなぜそんなに世間から隠そうとしたのか、長女のあやめの母親との関係はどうだったのか、定や利生の母親とはどの程度の恋愛だったのか……などなど、その辺りをきちんと踏まえておかないと、恨まれるのもキツいだろうなと……ってこれ、なんの宣伝にもならないね(笑)。とにかく、本筋となる定の物語、その骨格はしっかりしているので、あとは周りの人間たちもすごく葛藤してるんだと、枝葉末節のところまで面白くあればいいなと思っています」


池田成志


 キャラクターの人間性には、そして行動には、必ず裏付けがなくては。これが、どんな役にも自在に息を吹き込んできた俳優のメソッドなのか……と、素人ながらすっかり説得されてしまう取材者(私ですが)。定という息子にとって血の宿命に抗う物語であると同時に、『歌妖曲』は、勲にとっては築き上げてきた父性の崩壊に直面する物語でもあるのです。むむむ、深い、そして深刻……とついしかめっ面になってしまいそうですが、そこを洒脱にかわせるのもまた、ベテランの技量。
「ものすごく文学的な要素を入れているのにも関わらず、すごく派手な体裁でやろうとしているから、難しい挑戦ですよね。でも、エログロにしても、戯画調にしても、もうちょっと楽しい要素を入れていかないと、観ている人もしんどいじゃないですか(笑)。
 ちょっと思ったのは、僕と山内(圭哉。勲を支える大物フィクサー・大松盛男役)と福田転球(勲の娘婿・映画監督の峰田道明役)が出ているわけだから、何かちょっと昔の思い出に引っ掛けた、愉快なシーンを作ろうと思えば、できるんじゃないかと。山内はギターが弾けるし、転球はめっちゃ歌が上手いので、3人で何かやってみる……そんなシーンを作ってもいいんじゃないの? ってね。面白そうでしょ?」
 面白そうです! っていうか、山内圭哉さんが言っていた「面倒なこと」(→詳しくは山内圭哉さんのレポートをご参照あれ)って、これだったんですね。いやいや、ぜひにもあらまほしい面倒!
「復讐するほうも、ずっと真面目に恨んでなきゃいけないとなると、大変だよねぇ。劇中劇とか入れて、そこで変な役でもできるといいんだけど(笑)。中川大志くん、僕は映像でしか拝見したことがないけど、すごくきれいな顔をしたいい感じの青年で、しかもCMなんかではちょっととぼけた演技もしているじゃないですか。たぶん、そういったこともできる人だろうなと期待してますけど……僕から学ぶこと? いや、それは全然ないと思います(キリッ)」
 立ちポーズの撮影でも、寄り(アップ)の撮影でも、威風堂々の父親像だけでなくコミカルなポーズや表情を混ぜて、どこか微妙な“外し”を狙っている様子も? 池田さん独自の、味わい深いラスボス像は、着々と構築されつつあるようです。


池田成志


「自分で書かない人間は、好きなこと言いますよね(笑)。でも、『僕はこう思ってるけど』ということを、言わないのもどうかな? とも思う。それは誰かが言わなきゃいけないし、腹に収めて稽古するっていうのも、ちょっと気持ちが悪いので。まあ、若干めんどくさいタイプの役者ですが(笑)、稽古が始まったらきっといろいろ疑問が湧くだろう……というのがあらかじめわかっちゃう節もあるので、なるべくそうならずに現場が進むように持っていきたいなと」
 すべては、作品と、ともに作る仲間のために、そして観客のための創意工夫。台本を渡された時点から、役作り、そして場づくりは、始まっているのです。
 予定では、稽古開始は秋風が吹く頃。それまでには、キャスト・スタッフのコミュニケーションが進み、さらに複雑かつ濃厚な音色に練り上げられているに違いない『歌妖曲~中川大志之丞変化~』。メインヴィジュアル撮影レポートはこれでいったん終了ですが、今後も制作過程の様子あれこれを、都度都度、皆さまにお届けしていきます。どうぞ引き続き、ご注目ください!


TEXT:大谷道子 撮影:大関敦

2022.07.08 【山内圭哉編】撮影レポート

 義理と人情を天秤にかければ、義理に傾く世の中で、それでも捨てきれないのが人の情——。そんなしがらみに命を賭けた人々が、己の仁義と欲得のために暗躍した昭和という時代。きらびやかな芸能界と、その周辺で烈しく生きた人々のドラマが繰り広げられる新作音楽劇が、三銃士企画第2弾『歌妖曲~中川大志之丞変化~』です。
 メインヴィジュアル制作の舞台裏をお届けしている現場レポート、今回は物語の主軸となる芸能一家・鳴尾家の繁栄を陰日向に支えるフィクサー・大松盛男に扮する山内圭哉さん、その撮影の様子をお送りします。登場した瞬間から息を呑む迫力! 任侠に生きる男の生きざまと色気が滲み出る渾身のヴィジュアル撮影は、まさしく切った張ったの仁義なき戦い!(?)となりました。



山内圭哉


 ここがスタジオの中でよかった……と、この日ばかりは心底、思いました。なんといっても、この迫力のヴィジュアルです。オレンジ色のヴィヴィッドなスーツに身を包み、濃いサングラスに表情を隠して登場した山内圭哉さん。どっしりとカメラの前に立つと同時に背景に昭和の任侠映画のテーマ音楽が大音量で鳴り響くと、これはもう一同、「おひけえなすって!」(使い方間違ってる)とひれ伏すしかありません。
 その姿に対峙するのが、フォトグラファー・池村隆司さん。実は今回の撮影、この池村さんからの俳優陣への熱い〝煽り〟が評判なんです。まだ台本を一読したのみ、稽古が始まっていない状況で、俳優にいかに役の人物として表現してもらうか……そこが宣伝ヴィジュアル撮影者の腕の見せどころ。
「胸をバーンと張って! 息を溜めて! 魔王だ! 魔王こい!」
 親分を通り越して魔王? たじろぐスタジオ一同ですが、さすがは百戦錬磨の山内さん、少しも動じず、じわじわと大松盛男の威厳をにじませはじめます。


山内圭哉


 古典劇からエンタテインメントまで、幅広い作品への出演歴と、そこで身につけた豊かな表現力を誇る山内圭哉さん。近年は、映像作品で見せるおちゃめな存在感にも注目が高まっています。『歌妖曲』の物語のベースになる『リチャード三世』翻案劇にも出演経験があり(『鉈切り丸』2013年上演)、その魅力を、演じて実感したと言います。
「シェイクスピア作品の中でも随一のピカレスク(悪漢が成り上がる物語)で、やっぱり惹きつけられるものがあるんですよね。負の力で這い上がる気持ちって、ちっちゃいことで言えば『アイツより稼いだろ』とか、大なり小なり誰にもあるものじゃないですか。刹那の欲を追い求めて、上り詰めたときにパァッと散る……そういう、人間の業がギュッと煮詰められた切なさみたいなものが、この作品からも感じられて、台本を読んでまずそこにグッときました」


山内圭哉


 演じる大松盛男は、先代から受け継いだ任侠組織を基軸に、稀代の映画スター・鳴尾勲(演:池田成志)を陰の力で盛り立てながら、自身も日の当たる場所へ貪欲に勢力を伸ばしていこうとする男。その中で、自分を打ち捨てた父・勲を恨む鳴尾定(表の顔はスター歌手、桜木輝彦。演:中川大志)と対峙します。
「大松は策士というか……喧嘩の強さとか、思い切りの良さだけでは生きてない、どっか腹の底では他のこと思うとるんやろな、というイメージを持ちましたね。当時は、芸能と任侠の世界にあまり垣根がなかった時代。コンプライアンスなんか関係ないご時世でしたから、きっと濃い人だらけだったんでしょう。だいたい、あの時代ってフィクサーだらけだったんですよ。町内にもいましたからね。『実はあのおっさん、ごっついらしいで』って言われてる人とか(笑)。
 思えば、『ちゃんと働きたくない』『でもええもん食いたい』『ええ酒飲みたい』みたいな部分って、僕ら芸の世界で生きてる人間と、あんまり変わりがなかったりする。どの方法で行くかだけの違いで、実はおんなじ国の人間だったんじゃないか、という気もしてます」


山内圭哉


 でも最近の若い人たちはみんないい子やからなぁ、と山内さん。
「うまいし努力家やし、それで性格までいいとなると、できすぎてるやろ? って(笑)。中川大志くんも、僕ははじめてですけど、また新しい才能のある人たちと共演できるのは、ほんまに楽しみですね」
 2020年冬に上演された三銃士企画第1作『両国花錦闘士(りょうごくおしゃれりきし)』は、自身が別の演目の公演中だったため未見。しかし、「観に行った知り合いからも、出ていた(福田)転球さん(勲の娘婿・峰田道明役で今作にも出演)からもいろいろ話を聞いていて、ええなあ、楽しそうやなぁと思ってました」と山内さん。シリーズ2作目となる若い座組への期待を、愛情を込めて語ります。
「志をひとつにする人たちが集まってる感じが、いいですよね。本当はきっちりやらないといけないけど、『細かいことはどうでもええから、とにかくおもろいことやろうや』っていう感じの。そういう梁山泊的な、アパッチ砦のような雰囲気で、荒っぽく面白いものを作れる環境、昔はよくありましたけど、最近じゃやっぱり少なくなったんで……。
 自分自身もようやくやりたいことがわかってきて、そのために技術的にはこうすればいいということがそろそろできる年齢になってきたんで、プロデューサーさんたちにもぜひ、存分に好きなことをやってもらいたい。僕ら役者には『おもろいドッグラン、用意しといてな?』って願うだけで。そしたらもう、ものすごい勢いで走りますから! そういう感じでお互いにしっかりやっていけたら、いい公演になると思いますね」



山内圭哉


 顔にペイントを施して、ヴィジュアル撮影もいよいよ大詰め。にじり寄りながらの池村さんの煽りにも、それに応える山内さんの演技にも、ますます熱が入ります。
「なんていうか、あれだ! 肉だ! 肉を喰う! クワァァァッ!」
「噛む! 手を噛む! そう! ウォォォォッシャァァァァ! そして血を舐める!(??)舐めるんだ血を! +*q@q9#?\(もはや聞き取り不能)……じゃ、次にバストアップお願いしまーす(ペコリ)」
 なんやねんその緩急! と山内さんも一同もズッコケながら、無事に撮影は終了。山内さんの額には、すでに玉の汗が浮いています。
「カツアゲ屋になったかと思えば、急に『お願いしまーす』って、なんなんですかあの方(笑)。どっちかにしてほしいんですけど。まあ、これが『歌妖曲』の僕の第一印象ってことで。……そうそう、この間僕、“あの人”に待ち伏せされたんですよね。ええ。なんか、面倒なことが起こりそうですよ」
 最後の最後に、謎の言葉と不敵な笑みを残して去っていった大親分。「あの人」って誰? 「面倒」って何??(不安) その真相は、次回の撮影レポートにて!


TEXT:大谷道子 撮影:田中亜紀

2022.07.01 【中村 中編】撮影レポート

 憎んでいるのに、憎みきれない。それはお互い、愛に飢えた者同士だから──。
 昭和の芸能界に君臨する一家に生まれながら、打ち捨てられて育った男・鳴尾定。スター・桜木輝彦に変身した彼が、血を分けた人々にすら牙を剥く復讐の物語『歌妖曲~中川大志之丞変化~』。メインヴィジュアル撮影の舞台裏レポートの第5回は、定の姉で鳴尾一族の長女、人気歌手としてスポットライトを浴びる一条あやめを演じる中村 中さんの登場です。
 美しさと恐ろしさ、そして何より〝妖しさ〟を表現するなら、この方でなくては!スタジオは終始、ため息に包まれていました。



中村中


 スラリとした長身に腰まである艶やかなロングヘアをなびかせ、スタジオ入りした中村 中さん。パステルグリーンのジャケットがお似合いですが、スカートやハットは真紅、加えてピンヒールにレースの手袋と、ところどころにインパクトを持たせた着こなしが演じる人物の情念を感じさせます。
 切長のアイメイクと真っ赤なルージュは、往年のトップモデル・山口小夜子さんをイメージし、メイクアップアーティスト・YUKA HIRACさんが造形。「メイクもスタイリングもきれいに仕上げていただき、ありがとうございます」と優雅に膝を折ってお辞儀し、中村さんはカメラの前へ。もはや「あやめ様……」と呼びたい雰囲気です。


中村中


 スピーカーから流れる昭和歌謡で、スタジオに漂う情念。それに被せるように、フォトグラファー・池村隆司さんは「艶!艶とエロスで!」と、中村さんにオーダーします(ちなみに、撮影時は午前中)。
 しなやかに体をくねらせたり、長い指を滑らかに動かしながら誘いかけるポーズを決めたりと、的確に応えていく中村さん。その姿から発せられるのは、まさに昭和の匂いです。そのベースには、子どもの頃から聴いてきた歌謡曲の世界のイメージがあるといいます。
「昭和歌謡は華やかで壮大で、生命力を感じます。戦争が終わり、街も人も再生しようとしていた時ですし、エネルギーが必要だったんだと思うんですね。物もない、お金もない、だけど生き残った者はお腹も空くし性欲もあるしフラストレーションも溜まるだろうし、ある意味、生命力剥き出しの状態で。その生命力の受け皿みたいなものが必要だったんだと思います。だから歌い手にも、退廃的な雰囲気のメイクや衣裳が多かったように思うし、歌謡曲が生命力を更に盛り上げる存在として、聴く人を勇気づけていたのではないでしょうか」


中村中


 中村さんが扮する歌手・一条あやめは、身一つから芸能プロダクションを興し芸能界の頂点に上り詰めた鳴尾勲(演:池田成志)の長女。しかし、あやめの母は幼いあやめを捨てて家を出てゆき、その後、彼女は血のつながらない兄弟とともに暮らすことに。烈しい気性と高いプライドを持つ女性ですが、その心の底には、両親から愛されなかった哀しみを常に抱えています。
「血筋や家系から受け継ぐ誇りってあると思うんですけど、それは何をしていても自然と滲み出る品みたいなもので、それを本当に持っている人は凛として見えると思うんですよね。でも、あやめは、その誇りを自ら作り出して、それを必死に守ろうとしている人……という印象を台本から受けました。嫉妬深いのも、実は愛情に飢えているから。『私だけもらえかなった』『私だけもっていない』みたいな感覚なのではないでしょうか」


中村中


 憎しみも、強がりも、すべては傷ついた心の裏返し。そう思うと、あやめはどこか、定と似ているのかもしれません。
「そうですね。私自身は、定の生き方に、とても共感しています。彼としては、ただ普通に扱ってほしい、純粋に人と触れ合いたいと思っているだけなのに、それが他人には理解してもらえず、煙たがられるどころか恐れられるだなんて……寂しいじゃないですか。あやめにも、似ている部分はあると思います。『私はどこにいるんだろう』『ここにいるのよ』ということを訴えたいのでしょう。
 『歌妖曲』に出てくる人って、もしかしたら皆、そういうところがあるのかもしれません。華やかな舞台の裏側で、ジタバタしている人たち。その理由は皆、認めて欲しいとか空しいとか、似ているかも……」
 しかし、あやめは決して哀しいだけの女性としては描かれません。福田転球さん演じる夫で映画監督の峰田道明とのやりとりは、まるで夫婦漫才のよう。そして何より、歌手として繰り広げるであろう華麗なステージングには、大いに期待が高まります。
 「歌う芝居は久しぶりなので、楽しみです。あやめの歌もきっとそうだと思いますが、昭和歌謡は、歌詞の表面で歌われていることと、その内面に込められたことの差が面白いところ。華やか雰囲気とは裏腹な世界が、訳あり人間たちによって繰り広げられると思います」


中村中


 『歌妖曲』が第二弾となる「三銃士企画」については、以前からウェブサイトやツイッターをチェックしていたという中村さん。中でも、〝真剣に「遊び」を作り上げ、真剣に「遊び」を愉しんでいきたい〟というコンセプトに、強く心を動かされたといいます。
「遊びという、すごくわかりやすい言葉を使っているのって、優しいことだと思うんです。優しくない人って、変に難しい言葉を使ったりするイメージがあって。そんな優しい場所に、しばらくいられるということがうれしいんです。とくにここ2年は、世界的にも不安の渦中にあって、優しくない出来事が多いと思います。エネルギー切れというか、私自身、自分を放置してしまいがちな日が多かったので、エネルギッシュな企画に声をかけていただいたことは、救われる思いなんです。遊び、という優しくて強い〝気〟を持った方々と一緒に舞台を作れることが本当に楽しみです」
 インタビュー中に感極まって、思わず涙を浮かべる場面もありましたが、最後に見せた優しい笑顔は、ふわりと花が開いたようでした。憎しみも哀しみも歌に変え、大輪の花がステージに咲き誇る新作音楽劇『歌妖曲~中川大志丞変化~』に、引き続きご期待ください!



TEXT:大谷道子 撮影:大関敦

2022.06.24 【浅利陽介編】撮影レポート

 持たざる者は、奪ってでも成り上がっていくしかない。金も、力も、運命も、すべてその手で──。
 昭和の時代、芸能の表舞台とその影を司る世界に熱く、貪欲に生きた人々。強い執念と底なしの欲望が入り混じり展開する新作音楽劇『歌妖曲~中川大志之丞変化~』に登場するキャラクターたちは、強い執念と底なしの欲望をその身の内に宿した濃い人物像が魅力です。
 メインヴィジュアル制作の舞台裏レポート、第4回は、映像作品に加え近年は舞台でも存在感を示す浅利陽介さん。少年時代から芸能界でキャリアを積んできた人ならではの多彩な表現力は、〝妖(あやかし)〟揃いのキャストの中でどう発揮されるのか? 注目です。



浅利陽介


「さー、行きましょっか!」
 気合いのひとこととともにカメラの前に現れた浅利陽介さん。光沢のあるピンストライプのスーツにタイはレジメン、さらにカラフルなチーフと、柄、柄、柄のオンパレード!  宣伝衣装の高橋毅さん曰く「昭和のネオ・チンピラ」をイメージした派手な衣装を、見事に着こなしての登場です。
「いやぁ、こんなの着たことないですよ(笑)! でも、袖を通した瞬間からタイムスリップするというか、変化(へんげ)できるというか……楽しくなってきますよね。
 世代はぜんぜん違うんですが、やっぱり生まれに昭和(62年)がついているせいか、昭和歌謡には親しみを感じます。その当時の曲って中身がずっしりしてる感じがして、好きだなぁ。それに、新しさも感じますね。自分で歌うなら? うーん、堺正章さんの『さらば恋人』、ガロさんの『学生街の喫茶店』とか。お風呂に入ってるときに、よく歌ってます」


浅利陽介


 実は撮影時、別の舞台に出演中だった浅利さん。休演日にもかかわらず疲れた様子も見せず、フォトグラファー・池村隆司さんをはじめ、撮影スタッフの要望にテキパキと応えていく様子は、さすがプロフェッショナル。そう、浅利さんは4歳から芸能界に身を置き、34歳にしてすでに芸歴は30年以上! という若きベテランです。
「小学生の頃から『なんか……落ち着いてるね』って言われてたんですよ。現場の居方が大御所じゃんって。子どものときからやっていると、自然とそうなってしまうのかなぁ。だから最近は、なるべくそれっぽく見えないように気をつけてます(笑)。控室では端っこの方にいるとか……って言いながらいつもの僕の感じになっちゃうんですけど! まあ、普通にいるっていうのを大事にしてますね」


浅利陽介


 そんな浅利さんが『歌妖曲』で演じるのは、中川大志さん演じる鳴尾定と運命的な出会いをする地回りのヤクザ・徳田誠二。変身した定=スター歌手・桜木輝彦を影で支えながら、ともに歌謡界でトップに成り上がっていこうとする、いわば野望のバディで、輝彦・定の運命を左右するある秘密も握っている重要人物です。
「台本を最初に読んで感じたのは、昭和の人のパワー……もしかしたら今の人間よりも2倍、3倍勢いがあって、裸一貫で何かことを成してやろうという力強さがあったんじゃないか? と。それと、作品の中に織り込まれるその時代の歌謡曲が持つ哀愁だったり、迫力だったり。そういうイメージが頭の中をダーッと駆け巡って、読み終わったとき、ちょっと心拍数が上がっていました。
 徳田はすごく強い人間で、『ゴッドファーザー』のマイケル(演:アル・パチーノ)のような冷徹さも備えた男。そんな部分を出していけたらなぁと思うんですが、僕のこの見た目で突っ張ると、強がってるふうで逆に弱さが前面に出てしまうかもしれないからそれはなんとかしなくちゃなぁと。柴犬みたいなかわいい見た目だけれども、義理や情けといった、肚にひとつ決めたものを持っている。『これだけを見て俺は生きてるんだ』という、なにかに対してすごく忠実になれる人間だからこその怖さというか、そんなイメージを作れたらいいのかなと思ってます」


浅利陽介

 プロデューサー選曲のプレイリストには、内心に孤独を抱えつつ、それを強がりで打ち消しながら肩で風切って生きようとする男の心情を歌った名曲(だいたいわかりますかね?)がズラリ。その歌に徳田の心情を重ねて、ときおりウォーッ! と吼える浅利さん。任侠の世界に生きる者の覚悟と、隠しきれない人間らしさがせめぎあう徳田像が、すでにそこに存在していました。
「作・演出の倉持(裕)さんとは、はじめましてなので、どんな方なのか、どういうものづくりをされるのか、楽しみですね。中川大志くんとは彼が14歳の頃に一度、映像で共演したことがあるんです。当時から安定感というか、どっしりした感じが備わっていて、うん、もう出来上がってたというか……大人でしたよ、14歳にして。『そのまま行って大丈夫だよ!』という感じ。舞台でしっかり絡んで、人となりをさらに知ることができたらいいなと思います」


浅利陽介


 続いて、顔にペイントを施しての撮影。徳田の白は、彼の心根の純粋さ、その表れなのかも……。それは、演じること一途に生きてきた浅利さんにも、きっと通じるものに違いありません。
「まあ、なんだかんだでベテランではあるんですけど(笑)。でも、だからこそいちばんはじめに僕が挑戦して、全力で失敗してっていうのをやっていかないといけないですよね。『俺の背中を見ろ!』じゃないですけど……うん、そういう稽古場にしたいなと思います。自分からどんどん発信して、出鼻をくじかれていって、そこに先輩の(池田)成志さんや山内(圭哉)さん、(福田)転球さんたちも乗ってきてくれたら。
 音楽劇だから、歌も、もちろんやりたいですよ! こんなこと言うとまたアレですけど、僕、子どもの頃にレミゼとか出てたんで(ミュージカル『レ・ミゼラブル』1997年・98年公演で、革命に生きる少年・ガブローシュ役を熱演)、一応、基礎はあるので(笑)。そのあたりも楽しみにしていただければと思いますし、僕も期待してます!」
 浅利さんだから表現できる、男の一途さ、切なさは、ぜひ劇場で。欲望が渦巻く時代を力の限り生き抜く人々の魂の声が響く『歌妖曲~中川大志之丞変化~』、開演の日までどうぞお楽しみに!


TEXT:大谷道子 撮影:田中亜紀

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