お知らせ

2022.07.01 【中村 中編】撮影レポート

 憎んでいるのに、憎みきれない。それはお互い、愛に飢えた者同士だから──。
 昭和の芸能界に君臨する一家に生まれながら、打ち捨てられて育った男・鳴尾定。スター・桜木輝彦に変身した彼が、血を分けた人々にすら牙を剥く復讐の物語『歌妖曲~中川大志之丞変化~』。メインヴィジュアル撮影の舞台裏レポートの第5回は、定の姉で鳴尾一族の長女、人気歌手としてスポットライトを浴びる一条あやめを演じる中村 中さんの登場です。
 美しさと恐ろしさ、そして何より〝妖しさ〟を表現するなら、この方でなくては!スタジオは終始、ため息に包まれていました。



中村中


 スラリとした長身に腰まである艶やかなロングヘアをなびかせ、スタジオ入りした中村 中さん。パステルグリーンのジャケットがお似合いですが、スカートやハットは真紅、加えてピンヒールにレースの手袋と、ところどころにインパクトを持たせた着こなしが演じる人物の情念を感じさせます。
 切長のアイメイクと真っ赤なルージュは、往年のトップモデル・山口小夜子さんをイメージし、メイクアップアーティスト・YUKA HIRACさんが造形。「メイクもスタイリングもきれいに仕上げていただき、ありがとうございます」と優雅に膝を折ってお辞儀し、中村さんはカメラの前へ。もはや「あやめ様……」と呼びたい雰囲気です。


中村中


 スピーカーから流れる昭和歌謡で、スタジオに漂う情念。それに被せるように、フォトグラファー・池村隆司さんは「艶!艶とエロスで!」と、中村さんにオーダーします(ちなみに、撮影時は午前中)。
 しなやかに体をくねらせたり、長い指を滑らかに動かしながら誘いかけるポーズを決めたりと、的確に応えていく中村さん。その姿から発せられるのは、まさに昭和の匂いです。そのベースには、子どもの頃から聴いてきた歌謡曲の世界のイメージがあるといいます。
「昭和歌謡は華やかで壮大で、生命力を感じます。戦争が終わり、街も人も再生しようとしていた時ですし、エネルギーが必要だったんだと思うんですね。物もない、お金もない、だけど生き残った者はお腹も空くし性欲もあるしフラストレーションも溜まるだろうし、ある意味、生命力剥き出しの状態で。その生命力の受け皿みたいなものが必要だったんだと思います。だから歌い手にも、退廃的な雰囲気のメイクや衣裳が多かったように思うし、歌謡曲が生命力を更に盛り上げる存在として、聴く人を勇気づけていたのではないでしょうか」


中村中


 中村さんが扮する歌手・一条あやめは、身一つから芸能プロダクションを興し芸能界の頂点に上り詰めた鳴尾勲(演:池田成志)の長女。しかし、あやめの母は幼いあやめを捨てて家を出てゆき、その後、彼女は血のつながらない兄弟とともに暮らすことに。烈しい気性と高いプライドを持つ女性ですが、その心の底には、両親から愛されなかった哀しみを常に抱えています。
「血筋や家系から受け継ぐ誇りってあると思うんですけど、それは何をしていても自然と滲み出る品みたいなもので、それを本当に持っている人は凛として見えると思うんですよね。でも、あやめは、その誇りを自ら作り出して、それを必死に守ろうとしている人……という印象を台本から受けました。嫉妬深いのも、実は愛情に飢えているから。『私だけもらえかなった』『私だけもっていない』みたいな感覚なのではないでしょうか」


中村中


 憎しみも、強がりも、すべては傷ついた心の裏返し。そう思うと、あやめはどこか、定と似ているのかもしれません。
「そうですね。私自身は、定の生き方に、とても共感しています。彼としては、ただ普通に扱ってほしい、純粋に人と触れ合いたいと思っているだけなのに、それが他人には理解してもらえず、煙たがられるどころか恐れられるだなんて……寂しいじゃないですか。あやめにも、似ている部分はあると思います。『私はどこにいるんだろう』『ここにいるのよ』ということを訴えたいのでしょう。
 『歌妖曲』に出てくる人って、もしかしたら皆、そういうところがあるのかもしれません。華やかな舞台の裏側で、ジタバタしている人たち。その理由は皆、認めて欲しいとか空しいとか、似ているかも……」
 しかし、あやめは決して哀しいだけの女性としては描かれません。福田転球さん演じる夫で映画監督の峰田道明とのやりとりは、まるで夫婦漫才のよう。そして何より、歌手として繰り広げるであろう華麗なステージングには、大いに期待が高まります。
 「歌う芝居は久しぶりなので、楽しみです。あやめの歌もきっとそうだと思いますが、昭和歌謡は、歌詞の表面で歌われていることと、その内面に込められたことの差が面白いところ。華やか雰囲気とは裏腹な世界が、訳あり人間たちによって繰り広げられると思います」


中村中


 『歌妖曲』が第二弾となる「三銃士企画」については、以前からウェブサイトやツイッターをチェックしていたという中村さん。中でも、〝真剣に「遊び」を作り上げ、真剣に「遊び」を愉しんでいきたい〟というコンセプトに、強く心を動かされたといいます。
「遊びという、すごくわかりやすい言葉を使っているのって、優しいことだと思うんです。優しくない人って、変に難しい言葉を使ったりするイメージがあって。そんな優しい場所に、しばらくいられるということがうれしいんです。とくにここ2年は、世界的にも不安の渦中にあって、優しくない出来事が多いと思います。エネルギー切れというか、私自身、自分を放置してしまいがちな日が多かったので、エネルギッシュな企画に声をかけていただいたことは、救われる思いなんです。遊び、という優しくて強い〝気〟を持った方々と一緒に舞台を作れることが本当に楽しみです」
 インタビュー中に感極まって、思わず涙を浮かべる場面もありましたが、最後に見せた優しい笑顔は、ふわりと花が開いたようでした。憎しみも哀しみも歌に変え、大輪の花がステージに咲き誇る新作音楽劇『歌妖曲~中川大志丞変化~』に、引き続きご期待ください!



TEXT:大谷道子 撮影:大関敦

2022.06.24 【浅利陽介編】撮影レポート

 持たざる者は、奪ってでも成り上がっていくしかない。金も、力も、運命も、すべてその手で──。
 昭和の時代、芸能の表舞台とその影を司る世界に熱く、貪欲に生きた人々。強い執念と底なしの欲望が入り混じり展開する新作音楽劇『歌妖曲~中川大志之丞変化~』に登場するキャラクターたちは、強い執念と底なしの欲望をその身の内に宿した濃い人物像が魅力です。
 メインヴィジュアル制作の舞台裏レポート、第4回は、映像作品に加え近年は舞台でも存在感を示す浅利陽介さん。少年時代から芸能界でキャリアを積んできた人ならではの多彩な表現力は、〝妖(あやかし)〟揃いのキャストの中でどう発揮されるのか? 注目です。



浅利陽介


「さー、行きましょっか!」
 気合いのひとこととともにカメラの前に現れた浅利陽介さん。光沢のあるピンストライプのスーツにタイはレジメン、さらにカラフルなチーフと、柄、柄、柄のオンパレード!  宣伝衣装の高橋毅さん曰く「昭和のネオ・チンピラ」をイメージした派手な衣装を、見事に着こなしての登場です。
「いやぁ、こんなの着たことないですよ(笑)! でも、袖を通した瞬間からタイムスリップするというか、変化(へんげ)できるというか……楽しくなってきますよね。
 世代はぜんぜん違うんですが、やっぱり生まれに昭和(62年)がついているせいか、昭和歌謡には親しみを感じます。その当時の曲って中身がずっしりしてる感じがして、好きだなぁ。それに、新しさも感じますね。自分で歌うなら? うーん、堺正章さんの『さらば恋人』、ガロさんの『学生街の喫茶店』とか。お風呂に入ってるときに、よく歌ってます」


浅利陽介


 実は撮影時、別の舞台に出演中だった浅利さん。休演日にもかかわらず疲れた様子も見せず、フォトグラファー・池村隆司さんをはじめ、撮影スタッフの要望にテキパキと応えていく様子は、さすがプロフェッショナル。そう、浅利さんは4歳から芸能界に身を置き、34歳にしてすでに芸歴は30年以上! という若きベテランです。
「小学生の頃から『なんか……落ち着いてるね』って言われてたんですよ。現場の居方が大御所じゃんって。子どものときからやっていると、自然とそうなってしまうのかなぁ。だから最近は、なるべくそれっぽく見えないように気をつけてます(笑)。控室では端っこの方にいるとか……って言いながらいつもの僕の感じになっちゃうんですけど! まあ、普通にいるっていうのを大事にしてますね」


浅利陽介


 そんな浅利さんが『歌妖曲』で演じるのは、中川大志さん演じる鳴尾定と運命的な出会いをする地回りのヤクザ・徳田誠二。変身した定=スター歌手・桜木輝彦を影で支えながら、ともに歌謡界でトップに成り上がっていこうとする、いわば野望のバディで、輝彦・定の運命を左右するある秘密も握っている重要人物です。
「台本を最初に読んで感じたのは、昭和の人のパワー……もしかしたら今の人間よりも2倍、3倍勢いがあって、裸一貫で何かことを成してやろうという力強さがあったんじゃないか? と。それと、作品の中に織り込まれるその時代の歌謡曲が持つ哀愁だったり、迫力だったり。そういうイメージが頭の中をダーッと駆け巡って、読み終わったとき、ちょっと心拍数が上がっていました。
 徳田はすごく強い人間で、『ゴッドファーザー』のマイケル(演:アル・パチーノ)のような冷徹さも備えた男。そんな部分を出していけたらなぁと思うんですが、僕のこの見た目で突っ張ると、強がってるふうで逆に弱さが前面に出てしまうかもしれないからそれはなんとかしなくちゃなぁと。柴犬みたいなかわいい見た目だけれども、義理や情けといった、肚にひとつ決めたものを持っている。『これだけを見て俺は生きてるんだ』という、なにかに対してすごく忠実になれる人間だからこその怖さというか、そんなイメージを作れたらいいのかなと思ってます」


浅利陽介

 プロデューサー選曲のプレイリストには、内心に孤独を抱えつつ、それを強がりで打ち消しながら肩で風切って生きようとする男の心情を歌った名曲(だいたいわかりますかね?)がズラリ。その歌に徳田の心情を重ねて、ときおりウォーッ! と吼える浅利さん。任侠の世界に生きる者の覚悟と、隠しきれない人間らしさがせめぎあう徳田像が、すでにそこに存在していました。
「作・演出の倉持(裕)さんとは、はじめましてなので、どんな方なのか、どういうものづくりをされるのか、楽しみですね。中川大志くんとは彼が14歳の頃に一度、映像で共演したことがあるんです。当時から安定感というか、どっしりした感じが備わっていて、うん、もう出来上がってたというか……大人でしたよ、14歳にして。『そのまま行って大丈夫だよ!』という感じ。舞台でしっかり絡んで、人となりをさらに知ることができたらいいなと思います」


浅利陽介


 続いて、顔にペイントを施しての撮影。徳田の白は、彼の心根の純粋さ、その表れなのかも……。それは、演じること一途に生きてきた浅利さんにも、きっと通じるものに違いありません。
「まあ、なんだかんだでベテランではあるんですけど(笑)。でも、だからこそいちばんはじめに僕が挑戦して、全力で失敗してっていうのをやっていかないといけないですよね。『俺の背中を見ろ!』じゃないですけど……うん、そういう稽古場にしたいなと思います。自分からどんどん発信して、出鼻をくじかれていって、そこに先輩の(池田)成志さんや山内(圭哉)さん、(福田)転球さんたちも乗ってきてくれたら。
 音楽劇だから、歌も、もちろんやりたいですよ! こんなこと言うとまたアレですけど、僕、子どもの頃にレミゼとか出てたんで(ミュージカル『レ・ミゼラブル』1997年・98年公演で、革命に生きる少年・ガブローシュ役を熱演)、一応、基礎はあるので(笑)。そのあたりも楽しみにしていただければと思いますし、僕も期待してます!」
 浅利さんだから表現できる、男の一途さ、切なさは、ぜひ劇場で。欲望が渦巻く時代を力の限り生き抜く人々の魂の声が響く『歌妖曲~中川大志之丞変化~』、開演の日までどうぞお楽しみに!


TEXT:大谷道子 撮影:田中亜紀

2022.06.17 【福本雄樹編】撮影レポート

 兄さん、あなたの眩しさは、あの日からなんにも変わっちゃいない──。
 昭和の歌謡界を席巻する一族に生まれ、華々しい興隆の影に葬られた男の運命を描く音楽劇『歌妖曲~中川大志之丞変化~』。そのメインヴィジュアル撮影の舞台裏レポート第3回は、中川大志さん演じる定(さだむ)の実の兄でありながら、鳴尾家の〝一人〟息子として育てられたスター・鳴尾利生(なるお・としき)役を演じる福本雄樹さんの登場です。
 福本さんは、唐十郎氏が座長を務める「劇団唐組」の紅テントでの公演をはじめ、小劇場での濃密な作品への出演で演技力を培ってきた、生え抜きの演劇人。本作のような商業演劇作品では最もフレッシュなメインキャストとして挑みます。



福本雄樹


 芸能事務所の社長である父親が押し上げ華麗にデビュー。キャッチフレーズは「窓際のさびしげボーイ」(昭和時代のアイドル歌手には、しばしこうしたキャッチフレーズがつけられました)の大型新人・鳴尾利生。そんな役柄を、一目で「まさに!」と思わせた美しい福本さんの姿。父は戦後に銀幕で活躍した鳴尾勲(池田成志)、母は女優の雪村椿という芸能界のサラブレッドは、甘いマスクの目元に謙虚さとやさしさを滲ませ、「暗さがいい!」と言われるスター歌手・桜木輝彦(中川大志)とは真逆の魅力。二大アイドル的な存在となる役どころに納得させられます。

 きりりとした眉、黒々とした髪の七三分け、ベロアのスーツという、まさに昭和歌謡な出で立ちは爽やかで、高貴な色もお似合いです。けれどその表情には、スタジオに入ったときからなかなかの緊張感が。その華がありながらもどこか不安げな様子に、リアル利生を感じてしまいます。情熱的な芝居で多くの観客を魅了する「唐組」の公演では、野外にテント(ステージ)を建てるところから始め、全身で芝居に打ち込んでいる福本さん。この撮影レポートの写真からはそんな姿、きっと思い浮かびませんよね。そのギャップにもしびれます!


福本雄樹


 利生が歌いそうな昭和歌謡の王道が爆音で流れる中、撮影がスタート。フォトグラファー・池村隆司さんが「好青年で! 爽やかに!」とリクエストすると、福本さんは背筋をまっすぐ伸ばし、シャッター音に誠実に反応しながら、静かにポーズを変えていきます。それに対して池村さんが「そう!」「その目がいい! すごくいい!」と少しずつ温度を上げていくと、それに呼応するように、昭和のスター感がだんだんと引き出されていきました。ポケットに手を入れたり、遠くを見つめながら切ない表情を浮かべたり、かわいい笑顔を見せたり。キラキラと輝きがこぼれ始めると、これはもうスター鳴尾利生です。
「昭和歌謡界の国民的スターということは、周りの期待やプレッシャーもある。利生はそれを敏感に感じ取ることができる空気の読める人間で、そういうものと葛藤しながらステージに立っている。でもどこかで自分に自信がないようなところもあるんだと思います」
 この言葉、どこか撮影中の福本さんとも重なりました。


福本雄樹


 鳴尾利生は、鳴尾一族の長男、芸能事務所・鳴尾プロの秘蔵っ子、期待の大型新人……とさまざまなものを担いながら芸能界を邁進していく、いや、邁進するしかない青年。強烈な個性を放つ鳴尾一族の中では異質とも言える、誠実さとやさしさを持った人間です。そしてただ一人、定に兄として愛情を注ぐ存在で、だからこそ定にとって特別な人です。
「利生と定、ふたりは鳴尾一族の〝光と影〟なんだと思います。利生は定にとっても希望の光のような存在なので、その〝光〟の部分を担いたい。でも利生は本当にただただ定が好きでやさしくしていたのか、そして定にとって利生は本当はどんな存在だったのか、ふたりの心の奥底にはどんな思いがあったのか……そういう部分は稽古で、中川大志さんとつくっていきたいです」

 利生の強い光はもちろん世間にも届きます。彼の歌は大ヒットし、すんなりとスターダムに。変身した定=スター歌手・桜木輝彦とも「二大ヤングアイドル」として売り出され、弟とは知らずに交流を重ねていきます。スターの役を演じるのは初めてだという福本さん。
「最初からスターとして登場する役なので、僕も自分に自信をつけてがんばりたいです。歌謡曲を歌うシーンもありますが、舞台上でマイクを持って歌うのも初めて。いまはボイストレーニングのレッスンを受けているところです。課題曲は尾崎紀世彦さんの『また逢う日まで』」
 あら、その曲は。
「はい。撮影のときにも少し歌いました(笑)」


福本雄樹


 これまでは主に劇団公演に出演してきた福本さん。この「三銃士企画」への出演は、これまでとは違うテイストの芝居への挑戦であり、商業演劇の殿堂への初参加となります。
「決まったときは素直にすごくうれしくて喜んでいたんですけど、いまは、今日の撮影に携わるスタッフさんの数からも感じられる、この企画の規模の大きさにだんだんと緊張感が高まってきました。それでだんだん〝楽しい〟と〝緊張〟が同じくらいになっています。これから〝緊張〟が勝っていくかもしれないですが(笑)、そこはちゃんと乗り越えていきたいです。明治座のような大きな舞台に立つことも初めてですし、僕にとっては今作のほとんどすべてがチャレンジです」
 福本さんの周りに漂っていた緊張感はそれが理由? と思いきや「いえ、これはいつも通りです。もともと緊張しいなので(笑)」と照れ笑い。そこで心強いのは、新ロイヤル大衆舎×KAAT『王将』-三部作-(2021年上演)でも共演した、山内圭哉さんや福田転球さんの存在なのだそう。
「山内さんにも転球さんにもすごくよくしていただきましたから。皆さんが稽古で役をどんなふうにつくっていかれるのか、皆さんに刺激を受けながら自分が鳴尾利生をどんなふうにつくるのか。最終的に舞台上にどんな世界が生まれるのか。それをお客様にどう見ていただけるのか。とても楽しみです」
 ひたすら物腰柔らかな福本さんでしたが、これまでも舞台上でしっかりとした存在感を放ってきた俳優です。明治座でもみせつけてくれるはず!


福本雄樹


 鳴尾一族の〝光〟を背負い、芸能界でもスターとして〝輝き〟を背負う利生。けれど光とは、眩しければ眩しいほど影も黒くなるもの──。きっとまだ誰も見たことのない福本さんの光と影がうつしだされる新作音楽劇『歌妖曲~中川大志之丞変化~』、必見です!


TEXT:中川實穗 撮影:田中亜紀

2022.06.10 【松井玲奈編】撮影レポート

 許さない。呪われた運命も、自分を陥れた宿敵も──。
 昭和の歌謡界に君臨する一族に生まれながらその存在を闇の中に隠された男が、その野望に共鳴する人々と繰り広げるダークで華麗な音楽劇『歌妖曲~中川大志之丞変化~』。情報解禁とともに発表されたメインヴィジュアル制作の舞台裏レポート、第2回は、親の仇と呪う相手へ、中川大志さん演じる主人公・桜木輝彦(鳴尾定)とともに復讐を遂げようとする女性・蘭丸杏役の松井玲奈さんの撮影風景をお届けします。



松井玲奈


 スラリとした長身と長い手足に、小さな顔がグッドバランス。松井玲奈さんといえば、グループのセンターで輝いていた当時から現代的美人という印象でした。その人が、どんなふうに昭和の美女に変身するのか? 撮影前から、スタジオ内の期待は高まります。
「お待たせしました、よろしくお願いします!」
 歯切れのよい声とともに登場した松井さんは、まばゆい純白のジャンプスーツ姿。そして、フィンガーウエーブの女優ヘアに、目元や口元を強調したクラシックかつ華やかなメイク。涼やかなお顔立ちもによく映える! レトロであでやかな昭和の美女の姿が、そこにありました。

松井玲奈

「生まれは平成なんですが、子どもの頃から歌番組などで昭和の歌を聴くことも多かったので、昭和歌謡は決して自分から離れたものではなく、日常的に身近にある歌だと思ってきました。友だちとカラオケに行くと、渡辺真知子さんの『かもめが翔んだ日』などをよく歌いますね。ザ・ピーナッツさん(『恋のバカンス』などヒット曲多数)も大好きです」


松井玲奈


この日もプロデューサー選曲の昭和歌謡プレイリスト(杏ヴァージョン!)がスタジオに大音量で流れる中、まずは立ち姿からの撮影。正面、横向き、振り向きざま。長い手足を舞うように動かしながら、腰のひねりも加えて自在にポーズを取る松井さん。その目は、常に強くカメラを射抜きます。
 匂うように美しくありながら、芯には決して消えることのない炎が……それが、演じる美貌の歌手・蘭丸杏のイメージ。歌謡界を牛耳る芸能プロダクションの長・鳴尾勲(池田成志さん・演)の横槍により会社を潰され失意のうちに息を引き取った父の無念を晴らすために、「蘭丸ミュージック」を興し、鳴尾一族の消された末子・定をスター・桜木輝彦としてプロデュースする杏。父の敵討ちを果たし歌謡界を奪還するという黒い野望が、その胸に燃えているのです。
 「目的のためには手段を選ばないスマートさが、すごく好きだなと思いました」というのが、台本を一読しての松井さんの杏への印象。
「ただダークサイドに落ちているのではなく、杏には杏の信念があるんですよね。一本筋の通った彼女の思いを、観ている人にちゃんと届けなくちゃと。だから、とことん悪に染まりたい! いい人よりも制限がなく、ある意味、なんでもやれるのが悪役のいいところだと思うし、できればそれが、好きになれるような悪さだったら……。かっこいい悪役になりたいですし、いろいろと変化球を投げながら、複雑で豊かなキャラクターにしていけたらと。私と重なるところですか? うーん、杏ほどには非情にはなれない、かな」


松井玲奈


続いて〝寄り〟の表情。ズームアップしたカメラのファインダーには、不敵な笑みが光ります。「冷たい表情も!」とのフォトグラファー・池村博司さんからのリクエストには、冷ややかでありながらもその身の奥の炎を感じさせる表情で応じる松井さん。女性としての魅力を最大限に発揮しつつ、それを武器にするしたたかさと哀しさまで……複雑なキャラクターを、的確に表現していきます。
杏と桜木、そして定の関係は、シェイクスピア作品でいえば、手に手を携え欲望一途に突っ走るマクベス夫人とマクベスのよう。今作が初共演となる中川大志さんに対しては、「スマートでスタイリッシュ、そして何でもできる実力を備えた方」という印象を持ちつつ、スター歌手と醜く打ち捨てられた男の2役をどのように演じるのか、間近で見ることへの期待も高まっているといいます。
「トリッキーなこの役に、中川さんはどんなふうにアプローチしていくのか、そして杏は、桜木と定をどんなふうにサポートしていけるのか……。素の私は人とコミュニケーションを取るのに慎重に時間をかけるタイプですが、杏は会った瞬間からガンガン攻める印象なんですよね。だったら私もそれを見習って、今回は稽古場に入ったときから彼女のように、自分から何でも聞き、どんどん取りに行く! という姿勢でやっていきたいと思っています。ほかの共演者の方々とも、ディスカッションを重ねながら、台本に描かれた世界を、楽しみながらさらに膨らませていけたら」


松井玲奈


 「いいね、OK!」の声で、いったん控室に退いた松井さん。しばしのち、同じスタイリングのまま頬に鮮やかなペイントが施された松井さんがふたたび登場し、杏としてカメラの前に立ちます。
頬のペイントは、誰しもが過去や感情、思惑を隠し持っている──という『歌妖曲』のキャラクターたちの深い内面を象徴するもの。個性的なヴィジュアル表現と流れるアップテンポの音楽に乗って、松井さんのポージングにもますます磨きがかかります。松井さん、そして同じく表現者でもある杏のポテンシャルが感じられるセッション!
 そして、本作ではソロ、そして意外なキャラクターとのデュエット(?)を含め、松井さんの歌唱シーンも、大きな見どころのひとつ。
「台本に『ここにはこんなイメージの歌が入ります』と書かれていたので、それを想像しながら期待を膨らませてはいるんですが、人前で歌うことをもうずいぶん長くしていないので、緊張も……(笑)。でも、杏の情念、その根の深さがきっと曲に乗ってくるんだろうなとも思うので。うん、バッチリやります! どうぞ楽しみにして、劇場にいらしてください」
最後は力強い宣言を、満面の笑顔で発した松井さん。桜木と定をはじめ、登場人物すべてを幻惑し、物語を導く闇色のヒロイン。松井玲奈さんが艶やかに演じ、歌う『歌妖曲~中川大志之丞変化~』、必見です!


TEXT:大谷道子 撮影:田杭孝英

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