お知らせ

2022.07.08 【山内圭哉編】撮影レポート

 義理と人情を天秤にかければ、義理に傾く世の中で、それでも捨てきれないのが人の情——。そんなしがらみに命を賭けた人々が、己の仁義と欲得のために暗躍した昭和という時代。きらびやかな芸能界と、その周辺で烈しく生きた人々のドラマが繰り広げられる新作音楽劇が、三銃士企画第2弾『歌妖曲~中川大志之丞変化~』です。
 メインヴィジュアル制作の舞台裏をお届けしている現場レポート、今回は物語の主軸となる芸能一家・鳴尾家の繁栄を陰日向に支えるフィクサー・大松盛男に扮する山内圭哉さん、その撮影の様子をお送りします。登場した瞬間から息を呑む迫力! 任侠に生きる男の生きざまと色気が滲み出る渾身のヴィジュアル撮影は、まさしく切った張ったの仁義なき戦い!(?)となりました。



山内圭哉


 ここがスタジオの中でよかった……と、この日ばかりは心底、思いました。なんといっても、この迫力のヴィジュアルです。オレンジ色のヴィヴィッドなスーツに身を包み、濃いサングラスに表情を隠して登場した山内圭哉さん。どっしりとカメラの前に立つと同時に背景に昭和の任侠映画のテーマ音楽が大音量で鳴り響くと、これはもう一同、「おひけえなすって!」(使い方間違ってる)とひれ伏すしかありません。
 その姿に対峙するのが、フォトグラファー・池村隆司さん。実は今回の撮影、この池村さんからの俳優陣への熱い〝煽り〟が評判なんです。まだ台本を一読したのみ、稽古が始まっていない状況で、俳優にいかに役の人物として表現してもらうか……そこが宣伝ヴィジュアル撮影者の腕の見せどころ。
「胸をバーンと張って! 息を溜めて! 魔王だ! 魔王こい!」
 親分を通り越して魔王? たじろぐスタジオ一同ですが、さすがは百戦錬磨の山内さん、少しも動じず、じわじわと大松盛男の威厳をにじませはじめます。


山内圭哉


 古典劇からエンタテインメントまで、幅広い作品への出演歴と、そこで身につけた豊かな表現力を誇る山内圭哉さん。近年は、映像作品で見せるおちゃめな存在感にも注目が高まっています。『歌妖曲』の物語のベースになる『リチャード三世』翻案劇にも出演経験があり(『鉈切り丸』2013年上演)、その魅力を、演じて実感したと言います。
「シェイクスピア作品の中でも随一のピカレスク(悪漢が成り上がる物語)で、やっぱり惹きつけられるものがあるんですよね。負の力で這い上がる気持ちって、ちっちゃいことで言えば『アイツより稼いだろ』とか、大なり小なり誰にもあるものじゃないですか。刹那の欲を追い求めて、上り詰めたときにパァッと散る……そういう、人間の業がギュッと煮詰められた切なさみたいなものが、この作品からも感じられて、台本を読んでまずそこにグッときました」


山内圭哉


 演じる大松盛男は、先代から受け継いだ任侠組織を基軸に、稀代の映画スター・鳴尾勲(演:池田成志)を陰の力で盛り立てながら、自身も日の当たる場所へ貪欲に勢力を伸ばしていこうとする男。その中で、自分を打ち捨てた父・勲を恨む鳴尾定(表の顔はスター歌手、桜木輝彦。演:中川大志)と対峙します。
「大松は策士というか……喧嘩の強さとか、思い切りの良さだけでは生きてない、どっか腹の底では他のこと思うとるんやろな、というイメージを持ちましたね。当時は、芸能と任侠の世界にあまり垣根がなかった時代。コンプライアンスなんか関係ないご時世でしたから、きっと濃い人だらけだったんでしょう。だいたい、あの時代ってフィクサーだらけだったんですよ。町内にもいましたからね。『実はあのおっさん、ごっついらしいで』って言われてる人とか(笑)。
 思えば、『ちゃんと働きたくない』『でもええもん食いたい』『ええ酒飲みたい』みたいな部分って、僕ら芸の世界で生きてる人間と、あんまり変わりがなかったりする。どの方法で行くかだけの違いで、実はおんなじ国の人間だったんじゃないか、という気もしてます」


山内圭哉


 でも最近の若い人たちはみんないい子やからなぁ、と山内さん。
「うまいし努力家やし、それで性格までいいとなると、できすぎてるやろ? って(笑)。中川大志くんも、僕ははじめてですけど、また新しい才能のある人たちと共演できるのは、ほんまに楽しみですね」
 2020年冬に上演された三銃士企画第1作『両国花錦闘士(りょうごくおしゃれりきし)』は、自身が別の演目の公演中だったため未見。しかし、「観に行った知り合いからも、出ていた(福田)転球さん(勲の娘婿・峰田道明役で今作にも出演)からもいろいろ話を聞いていて、ええなあ、楽しそうやなぁと思ってました」と山内さん。シリーズ2作目となる若い座組への期待を、愛情を込めて語ります。
「志をひとつにする人たちが集まってる感じが、いいですよね。本当はきっちりやらないといけないけど、『細かいことはどうでもええから、とにかくおもろいことやろうや』っていう感じの。そういう梁山泊的な、アパッチ砦のような雰囲気で、荒っぽく面白いものを作れる環境、昔はよくありましたけど、最近じゃやっぱり少なくなったんで……。
 自分自身もようやくやりたいことがわかってきて、そのために技術的にはこうすればいいということがそろそろできる年齢になってきたんで、プロデューサーさんたちにもぜひ、存分に好きなことをやってもらいたい。僕ら役者には『おもろいドッグラン、用意しといてな?』って願うだけで。そしたらもう、ものすごい勢いで走りますから! そういう感じでお互いにしっかりやっていけたら、いい公演になると思いますね」



山内圭哉


 顔にペイントを施して、ヴィジュアル撮影もいよいよ大詰め。にじり寄りながらの池村さんの煽りにも、それに応える山内さんの演技にも、ますます熱が入ります。
「なんていうか、あれだ! 肉だ! 肉を喰う! クワァァァッ!」
「噛む! 手を噛む! そう! ウォォォォッシャァァァァ! そして血を舐める!(??)舐めるんだ血を! +*q@q9#?\(もはや聞き取り不能)……じゃ、次にバストアップお願いしまーす(ペコリ)」
 なんやねんその緩急! と山内さんも一同もズッコケながら、無事に撮影は終了。山内さんの額には、すでに玉の汗が浮いています。
「カツアゲ屋になったかと思えば、急に『お願いしまーす』って、なんなんですかあの方(笑)。どっちかにしてほしいんですけど。まあ、これが『歌妖曲』の僕の第一印象ってことで。……そうそう、この間僕、“あの人”に待ち伏せされたんですよね。ええ。なんか、面倒なことが起こりそうですよ」
 最後の最後に、謎の言葉と不敵な笑みを残して去っていった大親分。「あの人」って誰? 「面倒」って何??(不安) その真相は、次回の撮影レポートにて!


TEXT:大谷道子 撮影:田中亜紀

ページトップへ