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2022.06.24 【浅利陽介編】撮影レポート

 持たざる者は、奪ってでも成り上がっていくしかない。金も、力も、運命も、すべてその手で──。
 昭和の時代、芸能の表舞台とその影を司る世界に熱く、貪欲に生きた人々。強い執念と底なしの欲望が入り混じり展開する新作音楽劇『歌妖曲~中川大志之丞変化~』に登場するキャラクターたちは、強い執念と底なしの欲望をその身の内に宿した濃い人物像が魅力です。
 メインヴィジュアル制作の舞台裏レポート、第4回は、映像作品に加え近年は舞台でも存在感を示す浅利陽介さん。少年時代から芸能界でキャリアを積んできた人ならではの多彩な表現力は、〝妖(あやかし)〟揃いのキャストの中でどう発揮されるのか? 注目です。



浅利陽介


「さー、行きましょっか!」
 気合いのひとこととともにカメラの前に現れた浅利陽介さん。光沢のあるピンストライプのスーツにタイはレジメン、さらにカラフルなチーフと、柄、柄、柄のオンパレード!  宣伝衣装の高橋毅さん曰く「昭和のネオ・チンピラ」をイメージした派手な衣装を、見事に着こなしての登場です。
「いやぁ、こんなの着たことないですよ(笑)! でも、袖を通した瞬間からタイムスリップするというか、変化(へんげ)できるというか……楽しくなってきますよね。
 世代はぜんぜん違うんですが、やっぱり生まれに昭和(62年)がついているせいか、昭和歌謡には親しみを感じます。その当時の曲って中身がずっしりしてる感じがして、好きだなぁ。それに、新しさも感じますね。自分で歌うなら? うーん、堺正章さんの『さらば恋人』、ガロさんの『学生街の喫茶店』とか。お風呂に入ってるときに、よく歌ってます」


浅利陽介


 実は撮影時、別の舞台に出演中だった浅利さん。休演日にもかかわらず疲れた様子も見せず、フォトグラファー・池村隆司さんをはじめ、撮影スタッフの要望にテキパキと応えていく様子は、さすがプロフェッショナル。そう、浅利さんは4歳から芸能界に身を置き、34歳にしてすでに芸歴は30年以上! という若きベテランです。
「小学生の頃から『なんか……落ち着いてるね』って言われてたんですよ。現場の居方が大御所じゃんって。子どものときからやっていると、自然とそうなってしまうのかなぁ。だから最近は、なるべくそれっぽく見えないように気をつけてます(笑)。控室では端っこの方にいるとか……って言いながらいつもの僕の感じになっちゃうんですけど! まあ、普通にいるっていうのを大事にしてますね」


浅利陽介


 そんな浅利さんが『歌妖曲』で演じるのは、中川大志さん演じる鳴尾定と運命的な出会いをする地回りのヤクザ・徳田誠二。変身した定=スター歌手・桜木輝彦を影で支えながら、ともに歌謡界でトップに成り上がっていこうとする、いわば野望のバディで、輝彦・定の運命を左右するある秘密も握っている重要人物です。
「台本を最初に読んで感じたのは、昭和の人のパワー……もしかしたら今の人間よりも2倍、3倍勢いがあって、裸一貫で何かことを成してやろうという力強さがあったんじゃないか? と。それと、作品の中に織り込まれるその時代の歌謡曲が持つ哀愁だったり、迫力だったり。そういうイメージが頭の中をダーッと駆け巡って、読み終わったとき、ちょっと心拍数が上がっていました。
 徳田はすごく強い人間で、『ゴッドファーザー』のマイケル(演:アル・パチーノ)のような冷徹さも備えた男。そんな部分を出していけたらなぁと思うんですが、僕のこの見た目で突っ張ると、強がってるふうで逆に弱さが前面に出てしまうかもしれないからそれはなんとかしなくちゃなぁと。柴犬みたいなかわいい見た目だけれども、義理や情けといった、肚にひとつ決めたものを持っている。『これだけを見て俺は生きてるんだ』という、なにかに対してすごく忠実になれる人間だからこその怖さというか、そんなイメージを作れたらいいのかなと思ってます」


浅利陽介

 プロデューサー選曲のプレイリストには、内心に孤独を抱えつつ、それを強がりで打ち消しながら肩で風切って生きようとする男の心情を歌った名曲(だいたいわかりますかね?)がズラリ。その歌に徳田の心情を重ねて、ときおりウォーッ! と吼える浅利さん。任侠の世界に生きる者の覚悟と、隠しきれない人間らしさがせめぎあう徳田像が、すでにそこに存在していました。
「作・演出の倉持(裕)さんとは、はじめましてなので、どんな方なのか、どういうものづくりをされるのか、楽しみですね。中川大志くんとは彼が14歳の頃に一度、映像で共演したことがあるんです。当時から安定感というか、どっしりした感じが備わっていて、うん、もう出来上がってたというか……大人でしたよ、14歳にして。『そのまま行って大丈夫だよ!』という感じ。舞台でしっかり絡んで、人となりをさらに知ることができたらいいなと思います」


浅利陽介


 続いて、顔にペイントを施しての撮影。徳田の白は、彼の心根の純粋さ、その表れなのかも……。それは、演じること一途に生きてきた浅利さんにも、きっと通じるものに違いありません。
「まあ、なんだかんだでベテランではあるんですけど(笑)。でも、だからこそいちばんはじめに僕が挑戦して、全力で失敗してっていうのをやっていかないといけないですよね。『俺の背中を見ろ!』じゃないですけど……うん、そういう稽古場にしたいなと思います。自分からどんどん発信して、出鼻をくじかれていって、そこに先輩の(池田)成志さんや山内(圭哉)さん、(福田)転球さんたちも乗ってきてくれたら。
 音楽劇だから、歌も、もちろんやりたいですよ! こんなこと言うとまたアレですけど、僕、子どもの頃にレミゼとか出てたんで(ミュージカル『レ・ミゼラブル』1997年・98年公演で、革命に生きる少年・ガブローシュ役を熱演)、一応、基礎はあるので(笑)。そのあたりも楽しみにしていただければと思いますし、僕も期待してます!」
 浅利さんだから表現できる、男の一途さ、切なさは、ぜひ劇場で。欲望が渦巻く時代を力の限り生き抜く人々の魂の声が響く『歌妖曲~中川大志之丞変化~』、開演の日までどうぞお楽しみに!


TEXT:大谷道子 撮影:田中亜紀

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