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2022.06.03 【中川大志編】撮影レポート

 彗星のごとく現れ出たスター歌手・桜木輝彦。しかし彼は、その華麗な姿とは裏腹に、知られざる過去を引きずり、炎のような復讐心を隠し持っていた──。
 昭和の歌謡界を舞台に、呪われた運命に抗う男の野望と復讐を描く『歌妖曲~中川大志之丞変化~』。スターがスターして存在したきらびやかな時代の空気は、令和の「いま」にどう再現されるのか? その鍵となるヴィジュアル撮影の舞台裏を、7回にわたってレポートします。
 まずは、主演の中川大志さん。爽やかなルックスと確かな演技力を備え、放送中の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』での凛々しい姿も大評判の彼が本作で演じるのは、「光」と「影」を象徴する一人二役。対照的で奥行きのある役柄を作り上げる第一歩は、こんなふうに踏み出されました。



中川大志

                  
 中川大志が、ついに舞台に──上演決定の一報以来、多くの人の注目を集めている『歌妖曲~中川大志之丞変化~』。情報公開に先駆け行われたヴィジュアル撮影のスタジオには、静かな中にも緊張の糸が張り詰めていました。
 何しろこの日は、桜木輝彦、その対となる闇の存在・鳴尾定(さだむ)が、はじめて姿を現す日。まだ想像の中にしかいないふたりに息が吹き込まれる、最初の瞬間を見逃すまいと、スタッフ一同、息を詰めて中川さんの登場を待ちます。
「よろしくお願いします」。礼儀正しいご挨拶(さすが無双の好青年!)とともに、まずは桜木輝彦が姿を現しました。と同時に、スタジオに昭和時代を彩ったヒット曲が流れ出します。実は本作のプロデューサーのひとり・浅生博一は、それぞれのキャラクターのイメージに合ったプレイリストを作成。当時の歌謡界の空気を伝えつつ、音で俳優たちを盛り立てよう! という試みです。


中川大志

                  
 中川さんの表情も、一気になごやかに。イエローのスーツとレトロなフラワープリントのシャツに身を包んだ姿は、まさに昭和のスター! ブロマイドふうの決めポーズに始まり、目配りや体勢を変えながら、中川さんは桜木の輝きを表現していきます。
 明るい色柄を複数組み合わせるのは、レコードジャケットやグラビアに残る昭和スターの定番スタイル。ですが、今回の撮影では大胆なコーディネートを現代によみがえらせるため、さまざまな工夫を凝らしています。
「華やかな芸能界をイメージして、黄色やゴールド、光る素材をたくさん取り入れました。当時の服って、襟が大きかったり、パッドが入っていたりするんですよね。色や柄も、ガチャガチャしていますし(笑)。それをそのまま再現するとトゥーマッチになってしまうので、全体はシュッとしたシルエットにまとめつつ……。イメージしたのは、アフリカのコンゴ共和国のサップ(*SAPE=「おしゃれで優雅な仲間たち」。1950〜60年代を思わせる高級服をカラフルに着こなす人々)。今日の桜木の衣装は、いわば〝昭和版サップ〟というところでしょうか」(宣伝衣装・高橋毅さん)


中川大志

                  
 そして、もうひとつの重要なポイントが、髪型とメイク。「たとえば、この服装でオールバックにして現代ふうのメイクにすると、現代の夜の街の男のようになってしまいますよね」とは、高橋さんの言。今回の撮影では、そこにあえてきちんと整えられた黒髪やきりりと太い眉といった昭和らしいヘアメイク(ヘア=佐鳥麻子さん・メイク=YUKA HIRACさん)を組み合わせることで、正統派のスター然としたスタイルが出来上がったのです。
 確かに、はでやかなスタイリングなのに、品よくノーブルな仕上がり。ポートレートの撮影に続き、マイクスタンドがスタジオに持ち込まれると、華麗な男性ヴォーカルのヒット曲が高らかに流れ始めます。歌声に誘われた中川さんもグッと熱量を上げ、場の空気は最高潮に! 歌“妖”界のプリンス・桜木輝彦の誕生に、スタッフたちからも拍手が沸き起こります。

 喝采のうちに桜木のカットを終えると、中川さんはメイク室に。そして、スタッフ全員が慌ただしく動き始めます。実は、これからが本日のメインイベント。『歌妖曲~中川大志之丞変化~』の世界を象徴する、キーヴィジュアルに取り掛かります。
 キーヴィジュアルのコンセプトは「二人羽織」と「光と影」。??? と首を傾げるかもしれませんが、本作の主人公は、桜木輝彦と、彼の正体である鳴尾定のふたり。映画界の大スターの一族に生まれながら、シェイクスピアの『リチャード三世』の主人公・リチャードのように、醜い容姿とある悲しい出来事から存在を消されて育った男・定が、壮絶な整形を経て光り輝く存在に生まれ変わり、一族への復讐に立ち上がる……というストーリーを、一体となって表現するのです。
 ふたたびスタジオに現れた中川さんは、裸身にシンプルな黒い布を巻きつけたグラフィカルな出で立ち。と、そこにもうひとり、ほぼ同じスタイリングの男性(俳優・脇卓史さん)が登場。ふたりはまず、文字通りの二人羽織で、桜木と定が一体であることを示すカットに挑みます(*完成したヴィジュアルでは、どちらも中川さんの表情になっています)。

 続いて、離れた場所に立つふたりの間に、衣装と同じ素材の伸縮性のある黒い布が、ぐるぐると巻きつけられていきます。この布を中川さんが前から、脇さんが後ろから引き合い、光へ登りつめる桜木、それを闇に引き戻そうとする定を表現するのです。
 CGではなく、あえてふたりの肉体を使って表現する理由を、「実際に引っ張りあって撮ったほうが、力強さやドラマが生まれるんじゃないかと」と語るのは、宣伝美術を担当したアートディレクターの高橋亮さん・井田岬さん。高橋さん、井田さんが頭の中にイメージした画像をよりダイナミックに表現するため、衣装の高橋さんとともに素材選びやセッティングの実験を重ねました。
 プランは万全でも、実際に布を巻きつける作業は、本番一発勝負。まるでアート作品を即興で作っていくような、大胆かつ細やかな仕事が施されます。


中川大志

                  
 そうして、いよいよ撮影スタート! 「引いて引いて! グーッと!」フォトグラファー・池村隆司さん(宣伝写真担当)のリードで、全身に力を込める被写体のふたり。赤く妖艶なライティングの中、全力で引き合う姿は、自分の運命から脱皮しようとする桜木の強さ、逃れきれない定の哀しさを体現していて、見る側も思わず拳にグッと力を込めてしまいます。
 せーの! とテンションをかけては、緩める。それを繰り返す撮影は、肉体的にも精神的にも実にハード。「足が……もうちょっで攣りそう!」と苦悶しつつ、中川さんは後ろから力を入れて引く脇さんを気遣い、撮影待ちの間には「誰か支えてあげてください」とスタッフに声をかけていました。

 引いて、引いて、力の限り、前へ、光のほうへ── その場にいる全員が、桜木と定の葛藤を見つめます。
 「ラスト!」と声のかかったカットは、最高の1枚に。場内からの拍手にホッと緩んだ笑顔を見せた中川さん。脇さんと手を握り、健闘をたたえあいました。

 ラストは、顔と全身を幾何学的に塗り分け、一身で異なる二つの人格を表現するカット。定の炎のような復讐心と狂気が桜木の内側からもがき出る、インパクトの強い表現です。が、それに負けない中川さんの目力は、きっと作品への挑戦、そして役を演じきることへの決意の表れなのでしょう。
 「うん、強いね……OK!」池村さんの声がスタジオに響き、桜木輝彦のファーストカットは無事終了! まだこの世に現れていない物語、その確かな胎動を感じた、充実の瞬間でした。
 熱く濃密な時間を過ごしたスタッフたちは、終了後、ちょっとした放心状態に。と、そのとき、上半身の衣装を解いた中川さんがふたたびスタジオに。見ると、そのお腹には……顔が! 
 スタッフの驚きぶりを見て、まだ塗り分けたままの中川さんの顔にも、こぼれるような笑顔が。まさか「腹芸」で笑わせて場の緊張を解くとは、なんという心得た気遣い! あらためて若き座長のもと、頑張っていこう──と、一同は決意をあらたにしたのでした。


中川大志

                  
 
「お疲れさまでした!」と、まだ興奮冷めやらぬ控室でも、相変わらず礼儀正しい中川さん。「僕だけでなく、皆さん、探り探りだったと思いますが……」と、今日の撮影を振り返ります。
「まだ稽古が始まっていないので、今日は僕自身の中の感情を……とくに定のイメージを表現するには、僕の中の不安やネガティブな気持ちをさらけ出しながらの試行錯誤でした。桜木のステージをイメージさせる場面では、音楽で盛り上げていただいたり、スタッフの皆さんに励ましていただいたりして、本当に楽しくやれましたね。普段はなかなか身につけない衣装やヘアスタイル、メイクにも、テンションが上がりました」
 初の本格音楽劇へのチャレンジを控え、すでに昨年からボイストレーニングを始めるなど、着々と準備を進めている中川さん。今年に入り、「ようやく『来たな!』という現実味が出てきた」と武者震いしつつ、これからの自分に思いを馳せます。
「三銃士企画の第1作である『両国花錦闘士(りょうごくおしゃれりきし)』(2020年12月~1月上演)を観に行ったあと、プロデューサーの方から『いつか一緒に舞台を』というお手紙をいただいて、舞台をやること、歌うことについて、自分の中でずっとその可能性について考えてきました。未知の世界なので、もちろん、怖いと感じる部分もありましたが、自分の中の知らないゾーンをどんどん見つけにいきたいと思いました。共演する皆さんや、スタッフの方々の力も借りながら、ひとりでは決して到達できないところまでたどり着けたら……そんな挑戦にしたいと思っています」
 作品に向かういまの率直な気持ちを「身を削る思いで、自分自身を爆発させたい!」と表現した中川さん。定から桜木が生まれるように、中川さんの中からどのような中川大志があらたに生まれ出るのか……誰もがそれを目撃することになる『歌妖曲~中川大志之丞変化~』。情念渦巻く極彩色の世界の誕生に、どうぞご期待ください!


TEXT:大谷道子 撮影:田中亜紀
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